7月9日(金)雨のち曇りのち晴れ 稚内フェリーターミナル→利尻島・鴛泊FT→利尻山


 6時30分発の朝一のフェリーに乗って利尻島に渡る。600人くらい乗れる大きな船だ。鴛泊(おしどまり)港までの所要時間は、1時間40分で二等運賃1,880円也。甲板に出ると、またまた不思議なことに、雨模様にもかかわらず利尻山が全容を見せている。思わず顔がほころぶ。

 さぁて、今日は忙しいぞ。1日で標高差1,500mを上って下りて温泉に入って、民宿の夕食までには戻らなければならないのだから。時間節約のために、フェリー内の売店で行動食のパンを買い込み(これが意外にもおいしかった!)、あらかじめ宿の奥さんに港まで迎えをお願いしておいて、鴛泊コースの登山口まで送ってもらった。これだから、小さな民宿は融通が利いてすばらしいのだ。

 途中、宿に余分な荷物を置いていくときに、登山届けの記入を促された。宿の方で提出してくれるのだそうだ。引き換えに、地図、携帯トイレ、水溶性のティッシュのセットを手渡され、利尻島の登山管理がかなりしっかりしていることを知る。


フェリーの甲板から利尻山が見えてご機嫌!

登山口のすぐ側にボタンキンバイのお花畑が

10分も行けば、名水「甘露和泉」。あまい!

 やっぱりテントにすればよかった、と思うくらい素敵なキャンプ場「利尻北麓野営場」で水を補給し、8:37に出発。港に着いてから、20分後には歩き出すという早業だ。辺りには可憐なボタンキンバイが咲き乱れている。名水100選の甘露泉でも水を補給し、2人で3g持ったのだが、この判断は大失敗。少なくとも4gは必要だったことが後に判明する。

 「野鳥の森」と名づけられた4合目を9:16に通過。エゾマツとトドマツの大木が美しい森だ。30分後に5合目到着。ここは森が開けていて、利尻空港と礼文島を一望できる最初の場所だ。さらに30分後に標高700mの6合目「第一見晴台」に到着。眺めがよいので、最初の休憩ポイントにして15分間ゆっくりする。


しばらくうっとりするような森が続く

その名にぴったりな「野鳥の森」

5合目からはキタノコギリソウと礼文島が

 それにしても、太めのだんなさまはズボンまで汗でびしゃびしゃ。ずぶぬれになったTシャツを着替えるように促す。私はほとんど汗をかかず、6合目に設置されている携帯トイレブースで用を足すが、夫はというと汗をかきすぎて小も出ないようだ。

 このブースはとてもシンプルで、中には折りたたみ椅子のような便座があるだけ。その便座の中に携帯トイレ、要するに大きな吸収シートが入った袋をぶらさげ、用を足す。口をしっかりしめて、小さなカラビナで自分のザックに吊す。何千万円もかかり、分解しにくいバイオトイレよりずっと合理的で美しく感じたが、近くの草むらには使用済みのティッシュが落ちていた。「どうして山に入らせてもらっておいて、こんなことをする人がいるんだろう」と悲しい気持ちになる。


6合目から見る山頂方面

Simple is Best!

第二見晴台で夫を待つ

 ここからは森林限界となり、ハイマツの群生の中を歩くことになるが、ハイマツの背が高くてまるで空気の動きがない。ここまでよいペースだった夫も、7合目を過ぎた辺りから突然足運びが鈍くなる。第二見晴台でゆっくり休んだが、8合目の長官山(1,218m)でついに「気持ち悪い」「頭が痛い」と訴え始めた。脳梗塞か熱中症が考えられるが、おそらく多量の発汗による熱中症だろうと判断、少し先の利尻山避難小屋までがんばってもらって様子を見ることにした。

 避難小屋前の木陰のベンチでスポーツドリンクと塩を補給、ズボン以外はすべて脱がせて横になってもらった。とにかく体温を下げなければならないので、脇に水筒を挟ませ、濡れたTシャツでしばらく扇いであげていると、みるみる顔色がよくなってきた。深刻な状態ではないようだ。

 結局、夫は避難小屋でゆっくり休んで待っているというので、私は1人で頂上を往復してくることに。すでに12:30を回っているが、2時間で戻ってこられるだろう。これより先は高山植物の宝庫で景色も一段と素晴らしくなるが、グズグズの砂礫で足場がかなり悪かった。高所恐怖症の夫は、調子がよくても倍の時間をかけなければならなかっただろう。ここまで来て残念な気もするけど、モチベーションもないようだし、この判断はベストだったと思う。


ゴゼンタチバナ

エゾツツジとミヤマアヅマギク

9合目の看板には「ここからが正念場」

 花の写真だけはぬかりなくカメラに収めながら道中を急いでいると、沓形コースとの合流点の下あたりでいきなり、「大久保さんじゃない!?」と声をかけられた。なんと、いつもお世話になっているゴールドウィンの渡辺さんだった。よもや、こんなところで知人に会うなんて!確か、マナスル遠征の後に筑波山に一緒に登って以来だから、2年ぶりくらいだろうか。

 渡辺さんは私だと確認したとたん、歩み寄ってきてブンブンと固く握手をした。さすがは、若くして大会社の役員になった方である。普通のエライさんなら、こんな小娘に自分の方から歩み寄ったりしないだろう。いつも感じるのだが、彼には人を分け隔てる壁がない。きっと誰に対してもこうなのだ。

 「いやー、山で会えるなんてうれしいなあ!」本当にうれしそうな笑顔に、私もことさらうれしくなる。札幌出張のついでに、以前お仕事をご一緒させていただいた繊維商社の桂川さんと、「ノースフェイス」、「ラテラ」の担当者の方と4人で、今朝沓形コースから登ってきたのだそうだ。なんて素敵な再会なんだろう。


イブキトラノオとボタンキンバイ(クリック)

チシマフウロ

ハクサンチドリ

 しばらく立ち話をした後、「まだ先があるから」と渡辺さんに促されて別れを告げる。この辺りから登山道は火山灰と小石のルートになり非常に滑りやすくなるが、危険な箇所には上りにも下りにもロープが張られており、急いでいるので特に下りでは重宝した。それにしても、東斜面のお花畑が美しい。この感動を声に出して誰かに伝えられないことが、ちょっとさびしい。下る人とは何人もすれ違うけれど、午後を回っているせいか登ってくる人がいない。

 13:45に小さな社のある山頂に着くと、誰もいなかった。西半分が雲に覆われてしまい東半分のパノラマだが、雨の予報だったことを考えればツイていることこのうえない。首を左に傾けたような南峰に進みたい気持ちにかられるが、ルート崩壊により通行禁止である。外国であれば、自己責任ということで禁止したりはしないのだろうが・・・。夫のことも心配なので、5分程度写真を撮ったらすぐに下り始める。


この標高差は圧巻!晴れた日には大雪山やサハリンが見えるというが・・・(クリック)

霧に巻かれる南峰。こちらより2m高い。

 予定どおり14:30頃避難小屋に戻ると、夫は品のよい単独行のご婦人と楽しく語らっていた。ヨカッタヨカッタ。私も一緒になってじゅうぶん休憩した後、15:00に小屋を立つ。ハイマツ帯に入るまでは、礼文島を眺めながらの空中散歩で、「やっぱり、人間自然の中で暮らさなくちゃダメだよな〜」と幸福感に浸りながら下るが、まもなく喉の渇きとの闘いに。もう水がほとんど残っていないのだ。展望がなくなるとやっぱり蒸し風呂状態で、ひぃひぃ言いながらようやくたどり着いた甘露泉の水の美味しかたこと!水筒を支える手がしびれるほど冷たくて気持ちいい。


イワヒゲ

エゾノハクサンイチゲ

避難小屋をふり返る

 登山口で使用済みの携帯トイレを回収箱に捨て(小2回分はけっこう重量がある。だんなは結局しなかった!)、甘露泉から携帯電話で呼んでおいたタクシーで利尻富士温泉に向かう。温泉に入る前に宿に下山連絡を入れると、漁師の若旦那がバスタオルと温泉券、預けておいた着替えを持ってきてくれた。うーん、やっぱり小さな民宿はすばらしい!

 おまけに、入浴後に迎えに来てくれた時間がちょうど日暮れ時で(この時期の利尻の日の出は3:45、日の入りは19:15)、「すごーい!カンドー!」と車の中で騒いでいると、「サービス、サービス」といきなり宿と反対方向に車を回した。若旦那は車の鍵も閉めずに丘をどんどん登り始め、頭にバスタオルを巻いたままの私は慌ててついていくと、ちょうど礼文島の向こうに夕日が沈むところだった。気を利かせて、「夕日ヶ丘展望台」と呼ばれる名所に連れてきてくれたのだ。


コケモモ

エゾカンゾウ

温泉の露天風呂からは利尻山が見える

 感動はこれだけにとどまらなかった。何の資料もなく、ただ収容人数が11名ということと、「小さな宿 漁師屋」という名前に惹かれて予約した宿なので、どんな夕食が出てくるかは想像もできなかったのだけど、これがとんでもないご馳走だった!なんといってもウニの量が半端じゃない。甘ーいっ!!柔らかーい!しかも、見たことのないきれいな濃い黄色!いったい今まで食べた生ウニってなんだったのー?

 聞けば、生ウニはそのままでは3日くらいで溶けて形がなくなってしまうので、市販されているものには形を固定させるために「ミョウバン」という薬を使っていて、それが苦いのだそうだ。朝採れたてのバフンウニのメスだけだと、これだけの量で3000円は下らないらしい。ウニだけでなく、すべてのお料理が新鮮な地のもので、どれも絶妙な味付け!

 今日が誕生日だった夫には、「帰ったら、高級中華料理で埋め合わせをするから」と言ってあったのだけど、「誕生日のお祝いは、これでいいっ!!」とご機嫌で生ビールを3杯もあおっていた。お客さんの中には山中で会った山形のグループもいて、厨房の(若主人の?)お母さんも混じって料理や地元や山の話なんかで盛り上がり、みんなで幸せを分かち合う夜となった。


ちょうど礼文島の真ん中に沈む夕日

忘れられない味!(クリック)

ウニってこんな色だったの?

【DATA】
 「小さな宿漁師屋」 TEL01638-2-2777 利尻富士町鴛泊字港町 11名 10,500円
 ※7/20以降になると、予約が取りやすいそうです。

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