4.没入特性と自己実現傾向に関する調査

 前項では、深い没入体験をもつ者は深い効果を得ているのではないかという仮説から、過去の印象深い没入体験の状態とその効果との関連を検討した。本項では、没入しやすい性質を持つ者は自己実現傾向が強いのではないかという仮説により、日頃の没入特性の頻度と自己に対する積極的な評価との関連を検討する。

(1)調査の概要

<調査時期・協力者・方法> 前項の質問紙で同時に測定

<有効回答数> 10歳から69歳までの721名 (平均年齢29.0歳)

<アンケート内容>

 日頃、よく没頭するときのことを思い浮かべてもらい、その活動の内容、経験年数、その活動への意欲・ものごとへの熱中のしやすさ(各10段階評価)について回答してもらったのち、以下の項目に対する日頃の頻度について5段階(1.まったくない、2.めったにない、3.ときどきある、4.しばしばある、5.いつもある)で評価してもらった。なお、項目の内容は前項の質問文を現在形に改めたものである。

 @フロー特性尺度 9つの下位尺度 各4項目 計36項目

 Aピーク特性尺度 5項目

 B自己に対する積極的な評価を測定する以下の尺度に、5段階(1.あてはまらない、2.どちらかといえばあてはまらない、3.どちらともいえない、4.どちらかといえばあてはまる、5.あてはまる)で評価してもらった。
 
  ●自己肯定意識尺度 [平石, 1990b]の下位尺度「対自己領域」 19項目
   自己実現傾向を測定する尺度。「自己受容」(自己に対する評価意識)、「自己実現的態度」
    (自己を伸長させる課題に取り組む姿勢)、「充実感」(感情的側面)の3つの因子から成る。


  ●自意識尺度 [菅原, 1984]の下位尺度「私的自意識」 10項目
    自分の内面や気分に注意を向ける程度の個人差を示す尺度。

  ●自尊感情尺度 [山本ら, 1982] 10項目
   自己への尊重や価値を評価する程度を測定する尺度。

  ●達成動機測定尺度 [堀野, 1987]の下位尺度「自己充足的達成尺度」 13項目
    自分自身にとって価値のあることを成し遂げようとする欲求をとらえる尺度。

 統計分析の結果、@については1項目を除いた9つの下位尺度 計35項目、Aについては全5項目が尺度項目として適切と見なされたので、以降の分析はこれらの項目を使用して行った。
 なお、以上の統計処理には、SPSS10.0J for Windows, Amos4.0Jを使用した。
質問文はこちら


(2)日頃の没入体験の実態

<没入活動の内容>
順位 活動内容
1 読書・マンガ 127 17.6
2 仕事・ボランティア 75 10.4
3 もの・作品づくり 68 9.4
4 スポーツ 62 8.6
5 観賞・鑑賞活動 59 8.2
6 楽器演奏・歌唱 47 6.5
7 パソコン(メール・インターネット等) 46 6.4
8 ゲーム(TVゲーム、パズルなど) 36 5.0
9 勉強 25 3.5
10 身体表現(ダンス、演劇など) 20 2.8
11 考えごと 19 2.6
12 アウトドア 17 2.4
13 ギャンブル 15 2.1
14 掃除・整理 12 1.7
16 会話 8 1.1
15 運転 7 1.0
17 ショッピング 7 1.0
18 サークル・部活動(学生) 5 0.7
19 動物の世話 5 0.7
20 恋愛 5 0.7
29 調べもの・情報収集 5 0.7
21 4 0.6
22 日記 4 0.6
23 化粧 4 0.6
24 育児 3 0.4
25 庭・畑仕事 3 0.4
26 食事 3 0.4
27 武道 2 0.3
30 瞑想 2 0.3
28 何も考えない 2 0.3
31 その他 18 2.5
記入なし 6 0.8


<経験年数> 平均 9.99年


<活動への意欲> 平均 7.92


<ものごとへの熱中のしやすさ>(1を「まったくそうではない」、10を「完全にそうだ」として) 平均 6.96
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