カナダに向かう飛行機の中で、私はすばらしい案を思いついた。登山スクールの仕上げにデナリを登る、その後女性2人だけでムスターグ・アタ登山を楽しみ、その高所順応を生かしてチョー・オユーに一撃で登れたら、なんて充実した年になるだろう!資金、ヴィザ、移動手段など問題は山積みであったが、ヒマラヤ登山を始めて以来こんな時は「なんとかなるさ、だめならまっ、いーか」と思えるようになっていた。さほどプッシュしなくても事がスムーズに運ぶ時は「Go!」、プッシュしてもうまくいかない時は「Wait」、まだ時期ではないのだ。それに、最初からうまくいくことがわかっている旅などおもしろくない。とはいえ、運よくここまで思い描いたとおりにきたので、チョー・オユーもきっと登れるだろうと脳天気にも思っていた。

しかし、甘かった。遠く新疆から1週間もかけてやっとチョー・オユーのベースキャンプにたどり着いた私は、着いた早々不運な知らせを聞かなければならなかった。「例年なら、この時期は雪が降っても風が吹き飛ばしてベストコンディションなのだが、今年は風が吹かず雪が深くなるばかりで雪崩が非常に危険な状態だ。よって隊を撤収することが決まった」と参加をお願いしてあったイギリス隊の隊長に告げられたのだ。It cannot be helped.チョー・オユーはただ穏やかに微笑んでいるように見える。なぜか頂きはとても近く感じる。山は逃げない。また来ればいいのだ。
右はキャラバン中、おもわず両掌を上に向けて祈りたくなった瞬間。来てよかったと素直に思えた。