ヒマラヤ8000m峰の頂に立った2ヶ月後、私は再びネパールにいた。運よく成功したとはいえ、技術力の甘さを痛感していた。もっと経験を積みたいという気持ちが、急峻な山、アマダブラム(6,851m)へと向かわせたのだ。ガッシャーブルムU峰を初めて見た時、「登ってもいいよ」と言ってくれているような気がした。しかし今回は出かける直前に雪崩に飲み込まれる夢を見、その姿を見た時も「こんなの、私には登れない」と感じた。それまでの経験では不安だったのだろう。「できるところまでやろう、だめなら潔く帰ってこよう」、そう腹に決めた。それが幸いしたのか、10月15日、「母の首飾り」と名付けられたその山に、無事登らせてもらうことができた。写真は5,800m地点から見たアマダブラムの夕暮れである。


今回参加したのは、ドイツのエクスペディション・オーガナイズ会社によって組織された隊である。クライアントはみなきちんとした職業を持っており、1ヶ月間のヴァケーションを利用して来ている人ばかり。彼らは、すべて自分でやらなければ充実感が得られない、といったようなこだわりはなく、ただクライミングを楽しみたいという感覚で、何の気負いもなく、しかもある程度山のなかで自立できる実力を持って、山を存分に楽しんでいた。どことなく組織的な重圧感の抜けない日本隊しか知らない私にとって、これはとても新鮮なことだった。写真は両端が切れ落ちた6,100mのキャンプ2から、雲海に影を落とす名も知らぬ峰を撮ったものである。私にはこれが巨大な龍安寺の石庭のように思えてならなかった。